造物主の置手紙

Note of the Lifemaker

恐竜は爬虫類ではない? 妥協する環世界センス

初めての投稿ですので、その人気にあやかって、恐竜を取り上げてみたいと思います。

恐竜に関する記事はアクセス数が稼げるみたいで、ネット上ではデマとか与太話みたいな話もいっぱい転がっています。最近では羽毛に関する話題が人気なようですが*1、これは「鳥類は恐竜である」という認識が一般に広まってきたこととも関連しているかと思います。

ところで、「恐竜は爬虫類である」という認識が一般的だと思っていましたが、よもやま話の中で「恐竜は爬虫類ではない*2という主張に出会う機会がありました。一見ただの与太話にも見えますが、何度も見かけたので何か根拠があるのかもしれない。気になったので調べてみました。

ネットを検索してみると、「恐竜は爬虫類ではない」と主張する個人サイトがいくつか引っかかりますね*3*4。そこでは両者の違いとして股関節の構造が挙げられていることが多いようです。爬虫類は四肢を体の横に突き出して歩くのに対し、恐竜は地面に対し垂直に四肢を突き出して歩くらしい。なるほど、確かに「這って歩く動物」を意味する「爬虫類」は、恐竜にはふさわしくない感じもします。

しかし、この解釈に従うと不自然な点が出てきます。例えば、ヘビやミミズトカゲの仲間では四肢が退化していますが、これらは爬虫類ではないのでしょうか?また、海に生息していた魚竜や首長竜もまた爬虫類に含まれないのでしょうか?そうでないとしたら、恐竜だけを爬虫類から除外する根拠がよくわからない。

納得できないのでもう少し探してみると、「ロバートバッカー博士の『恐竜綱』論」にインスピレーションを受けた、というサイトを見つけました*5。 ロバート・バッカー(Robert T. Bakker)氏は1960年以降のいわゆる「恐竜ルネッサンス」の立役者だそうです*6。そこで、この「恐竜綱」を手掛かりに探したところ、1974年にNature誌に掲載されたバッカー氏らの論文を見つけました *7。この論文では恐竜と鳥類が解剖学的に比較されていて、その結果として以下の3つが提唱されています。

  • 恐竜を爬虫綱(Class Reptilia)から独立させる
  • 恐竜と鳥類と併せて「恐竜綱(Class Dinosauria)」とする
  • 「恐竜綱」は単系統である

この論文の前までは鳥盤類と竜盤類の関係性が疑問視されていたそうで、「恐竜(dinosaur)」という分類群名は利用されなくなっていたらしい*8。 つまり、一度は否定されていた「恐竜」という分類群は、この論文によって(鳥類まで拡張されて)「復活」したということですね。この鳥類を含めた「恐竜」は現在でも支持されています(「鳥類は恐竜である」という認識)*9

一方、「恐竜を爬虫綱から独立させる」というバッカー氏らの考えは、支持されることはなかったように感じます。これは、古生物学で主流である分岐分類学において、「綱」などの分類階級が利用されなくなっていったことと関係していると思います。つまり、恐竜をわざわざ爬虫類から独立させる必要がなくなったからだと私は思うのですが、確証はありません。

いずれにせよ、それらの結果として現在では「(鳥類を含めた)恐竜は爬虫類である」という認識の方が主流となっています。


バッカー氏らの論文が発表されてから40年以上経過した現在、「恐竜は爬虫類ではない」という認識は主流ではありません。にもかかわらず、「恐竜は爬虫類ではない」と主張する人はいまだに存在します。もしかすると、「爬虫類と鳥類は別の動物である」という観念がこの主張の要因の一つなのかもしれません。

浸透した「鳥類は恐竜である」という認識が、「恐竜は鳥である」という認識*10に変質し、そこに「爬虫類と鳥類は別の動物である」という観念が加わることで、「恐竜は爬虫類ではない」という主張が生まれているのかもしれません。

もちろん、分岐分類学の立場からすると鳥類は恐竜であり爬虫類でもあるわけですが、ヒトが有している「環世界センス」*11による分類からすると、爬虫類と鳥類は決して相容れるものではありません。「哺乳類は魚類である」と言われても納得しがたいように。そこで、理由(股関節の構造の違い)をつけて恐竜を爬虫類から除外することによって、分岐分類学による知見と、自身の「環世界センス」による分類をすり合わせようとしていると考えることができます。

「恐竜は爬虫類ではない」という主張は、分岐分類学が切り捨てようとしている「環世界センス」側の妥協と抵抗の試みなのかもしれません。

まとめ

  • 「恐竜は爬虫類ではない」という説は、1974年に発表された論文で提唱されている。
  • その説はあまり支持されず、現在では「(鳥類を含んだ)恐竜は爬虫類である」という方が一般的である。
  • 現在でもその主張が行われるのは、「爬虫類と鳥類は別の動物である」という観念が原因?

*1:例えばこのイラストに関するデマは複数回拡散されてしまっていますね。

*2:この言葉には「恐竜 ⊄ 爬虫類」と「恐竜 ≠ 爬虫類」の2通りの解釈がありますが、今回は前者を取り上げました。「首長竜は恐竜じゃなくて爬虫類だ」というときは後者ですね。

*3:恐竜は爬虫類じゃない

*4:恐竜と爬虫類の違いの見分け方 最初に現れた恐竜とは?

*5:恐竜論

*6:ロバート・T・バッカー - Wikipedia

*7:T. Bakker, R. T.; Galton, P. M. Dinosaur Monophyly and a New Class of Vertebrates. Nature. 1974, vol. 248, p. 168-172.

*8:恐竜ルネッサンス - Wikipedia

*9:2017年3月に竜盤類の単系統性を否定する論文が出ましたが、それでもやはり恐竜の単系統性は揺るがないようです。A new hypothesis of dinosaur relationships and early dinosaur evolution : Nature : Nature Research

*10:この考えを主張する人がいないわけではありません。例えば、Gauthier & Queiroz (2001)では、恐竜や翼竜に対して「Panaves("すべての鳥類")」と名付けていますし、Shipunovという方の独自の分類体系ではv. 6.16から、Class Aves(鳥綱)にDinosauromorpha(恐竜形類:恐竜やラゲルペトンなどを含んだグループ)を含めています。

*11:「環世界センス」については以下の本から。

自然を名づける―なぜ生物分類では直感と科学が衝突するのか

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