造物主の置手紙

Note of the Lifemaker

「外来種イコール悪でいいのか?」へのつっこみ ヒトのミッション

今年は外来生物に関する話題を多く耳にするように思います。ナガミヒナゲシが「危険外来植物」だなんて喧伝されたり*1特定外来生物のヒアリが神戸港や名古屋港で発見されたり*2外来生物駆除番組が反響を呼んだり*3など。

そんな中で、「外来種イコール悪でいいのか?」と題した記事が日経バイオテクONLINEに掲載されています。

この記事では「人間生活に無害な外来種を駆除する必要はあるのか?」という疑問が呈されています。ですが、この記事には批判が寄せられているようです*4。私も読んでいて「なんか変だなあ」という印象を受けました。そこで、この記事について少しつっこみを入れてみたいと思います。生態学には詳しくないので、もし間違ってたらどなたか指摘をよろしくお願いします。

論旨のまとめ

この記事では、

  • 人為的に持ち込まれた生物種(以下、外来種
  • 自然に生息域を広げた生物種(以下、“移動種”*5
  • 人間生活に被害を与える外来種(以下、有害な外来種
  • 人間生活に無害な外来種(以下、無害な外来種

がいろんな箇所でバラバラに登場するので文意が掴みづらいですね。

ではまず、この記事の論旨をまとめてみます。

  1. 外来生物*6を駆除する企画が人気だが、違和感を覚える
  2. 外来種」の定義は、他の地域から人為的に侵入した種
  3. “移動種"が駆除されず、外来種が駆除されるのはなぜか?
  4. 有害な外来種の駆除は当然だが、無害な外来種を駆除するのはなぜか?
  5. 最近では、在来種の生存の圧迫という理由で駆除の対象となる*7
  6. ゲンゴロウブナ国内外来種なので駆除の対象
  7. クマゼミ地球温暖化によって生息域を広げた国内外来種
  8. 同じ地域に同じ生態系が維持されるべきという前提が間違い?
  9. 現在の外来種対策は人々の感傷によるものだろう
  10. 外来種である月見草はなぜ駆除されないのか?

つまり「"移動種"が駆除されないなら、無害な外来種も駆除されるべきではない」「生態系は変化するものなのに、なぜ維持しようとするのか?」ということですね。まあ、生物多様性保全に対するこうした疑問は、確かによくあるものかもしれません。ですがその疑問に答える前に、記事の中でいくつか存在する誤った認識を指摘していきたいと思います。

駆除される「外来種」は何か

この記事では、外来種の定義を「人為的な行為が介在し、他の地域から入ってきた種」と紹介しています。この定義は、環境省が示しているもの(「もともとその地域にいなかったのに、人間の活動によって他の地域から入ってきた生物」)*8とも一致します。そして、その外来種が、有害/無害の別なく駆除されていることを批判しています。

ですが、それらは本当に駆除されているのでしょうか。国による生物駆除(防除)の方針としては「特定外来生物被害防止基本方針」が存在します。ですが、その方針は、「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律外来生物法)」における特定外来生物が対象です。「外来生物法」では、特定外来生物を「外来生物(海外起源の外来種)であって、生態系、人の生命・身体、農林水産業被害を及ぼすもの、又は及ぼすおそれがあるもの」と定義されています。つまり、駆除の対象は(海外から導入された)有害な外来種であって、無害な外来種は駆除の対象ではない、ということです。つまり、「"移動種"が駆除されないなら、無害な外来種も駆除されるべきではない」という疑問提起は、そもそも最初から破綻しているのです。

類似した概念に「我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種(生態系被害防止外来種)」*9が存在しますが、これは「外来種対策の進展を図ることを目的」に策定されたものであって*10、駆除が目的ではありません。

国内外来種について

無害な外来種と同様、国内外来種についても駆除の対象ではありません。つまり、「関西の在来種だったゲンゴロウブナは関東では国内外来種に相当するので駆除の対象だそう」という認識は誤りということになります。

また記事中の定義に沿えば、クマゼミは自然に生息域を広げたため、国内「外来種」には相当しないことになります。自己矛盾していますね。もちろん、「生息域の拡大は人為的な地球温暖化の影響であるから、クマゼミ国内外来種だ!」と主張することも可能かもしれません(記事の筆者は、地球温暖化だけでなく農業や漁業も「人為的な行為」に含めているようです)が、「外来生物法」では外来生物の条件として「導入」を挙げています。「導入」は「意図的・非意図的を問わず人為的に移動させること」と紹介されています*11から、地球温暖化は「導入」には当たらず、クマゼミ国内外来種ではないと、私は思います*12

外来種を駆除する手間

以上では、「『外来生物法』では無害な外来種は駆除されない」というものでした。ですが、これらの法律などは「特定外来種を駆除しましょう」というものであって、「無害な外来種を駆除してはいけない」というものではありません。国の知らないところで無害な外来種が駆除されている可能性も否定できません。例えば、先述したナガミヒナゲシの件では、「危険外来植物」と勘違いした人々がナガミヒナゲシをどんどん駆除したことでしょう。私はまったく存じませんが、その駆除に税金が投入された、なんてこともあったかもしれません。ですが、もしあったとすれば、それは人々が「有害な外来種」であると認識したことが原因です。わざわざ無害な外来種を駆除する人々がそこまで大勢いるとは思いません。何しろ駆除には膨大な手間とお金がかかるのですから。

果たして、無害な外来種が駆除されている例は実在するのでしょうか?もちろん、私が知らないというだけかもしれません。ですが、記事の中にもそういった例は1つも挙げられていません。「無害な外来種も駆除されるべきではない」と批判するのであれば、具体的な例を示してほしいものです。

在来種への感傷

また、記事では「現在の外来種対策の背景には多分に人々の感傷があります」と述べられています。この「感傷」の意味するところはよく分かりませんが、おそらく「外来種によって日本/ふるさとに昔からいる生き物がいなくなってしまうのは寂しいなあ」という気持ちのことでしょうか。私は人々がそんな気持ちを持っているとは思いません。なぜなら、日本文化にも深く根付いており、絶滅危惧IB類にも指定されたニホンウナギが、今年の夏も大量に消費されるだろうからです。

本題

ようやく本題までたどり着きました。「"移動種"が駆除されないなら、無害な外来種も駆除されるべきではない」「生態系は変化するものなのに、なぜ維持しようとするのか?」という疑問について答えていきましょう。

これまでの文章の中で、無害な外来種は駆除されていない、ということを示してきました。これについて私は、「現在は有害な外来種が優先されているだけであって、本来であれば無害な外来種も駆除すべきだ」と考えます。

環境省のウェブサイトでも解説されているように、外来種は生態系への影響、人の生命・身体への影響、農林水産業への影響をもたらします*13。このうち、人の生命・身体への影響と農林水産業への影響、つまり人間生活に被害を与える外来種を「有害な外来種」としてきました。中には、外来種による捕食などの在来種への直接的な被害を「有害」だと考える人も多いでしょう。ところが目に見えづらくはありますが、在来種との遺伝的撹乱も人間生活へ被害を与えます。よく言われるのが遺伝資源への被害です。具体例は省略しますが、遺伝資源は自国のみならず世界的に重要な資源であり、今年の5月に日本も批准した「名古屋議定書」はその公平性の確保などを目的としたものです。外来種によって在来種が絶滅したり遺伝子が交雑したりしてしまい、その重要な資源は減少してしまいます。そうなるともう取り戻すことはできません。

「でも、生物の歴史では絶滅したり交雑したりするのは起きてきたでしょ?」と思う人もいるかもしれません。確かに、"移動種"によって生態系や在来種の遺伝子は変化してきました。

ですが、そのスピードと量が異なります。人間は、数日で地球を1周できるほどの移動力を獲得しました。また、家畜の交配から遺伝子編集に至るまで、さまざまに生物の遺伝子を改変してきました。さらに、ペットなどとして大量に輸入された生物は、自然環境へと逃げ出す数も多いでしょう。これらのスピードと量は、"移動種"によって起こり得るよりも速く多いのです。外来種の導入が数百年に数匹の割合であれば、在来種も対応できるかもしれません。しかし現在はそうではなく、残念ながら多くの在来種が絶滅の危機にあるのです。

結論としては、

  • 生態系や遺伝子は歴史的にも変化してきたが、人間がもたらす変化はそれより非常に急速で甚大である
  • 外来種は、一見それが無害に見えても(遺伝資源などの)人間生活に被害をもたらす
  • 人間生活への被害が大きいため、直接的な影響をもたらす外来種は優先に駆除しようとしている

というところでしょう。

「人間本位だなあ」と思いますが、ヒトも生物ですし、自分達の生存に必死だから仕方ないんだと思います。「個体数を増やし、生息域を拡大することは生物にとって最も重要なミッション」*14なのですから。

月見草について

「月見草を駆除せよ」と誰も言わないのは、おそらく月見草を含むマツヨイグサ属(Oenothera)がすべて南北アメリカ大陸原産であり*15、日本に近縁種がいないため交雑の可能性が低いことと、日本人の生活に被害を与えていないからではないでしょうか。

最後に

環境省のウェブサイトはよくまとまっているので、非常に参考になります。外来種問題とか環境問題とかの記事を執筆する際はぜひ参照すべきだと思います。


*1:ナガミヒナゲシは危険外来種? - Togetterまとめ

*2:名古屋港の埠頭にも「ヒアリ」 中国からのコンテナ上で:朝日新聞デジタル

*3:テレ東「池の水ぜんぶ抜く」ヒットの裏側 想像以上の反響「市長から依頼」― スポニチ Sponichi Annex 芸能

*4:https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/mag/btomail/17/06/27/00236/?n_cid=nbpbto_twbn - Twitter Search

*5:こんな用語は存在しませんが、便宜的に使用します。

*6:原文ママ。この用語が登場するのは冒頭の1か所のみです。おそらく「外来種」を定義する前には、より一般的な単語である(と記事の筆者が考えた)「外来生物」を用いたのでしょう。

*7:記事で主語が示されておらず分かりづらいですが、おそらく無害な外来種のことです。

*8:侵略的な外来種 | 日本の外来種対策 | 外来生物法

*9:特定外来生物だけでなく、未判定外来生物や旧来の要注意外来生物、その他を含んだもの。

*10:生態系被害防止外来種リスト | 日本の外来種対策 | 外来生物法

*11:侵略的な外来種 | 日本の外来種対策 | 外来生物法

*12:地球温暖化は「導入」であるとの認識は寡聞のため知りません。また、クマゼミが実際には人の手によって関東に持ち込まれた可能性も私は否定できません。

*13:侵略的な外来種 | 日本の外来種対策 | 外来生物法

*14:外来種イコール悪でいいのか?:日経バイオテクONLINE

*15:マツヨイグサ - Wikipedia