造物主の置手紙

Note of the Lifemaker

ヒアリはスズメバチ上科かアリ上科か 分類体系とレッテル

www.env.go.jp

神戸港のコンテナヤードで特定外来生物ヒアリSolenopsis invicta)が確認されたことが大きなニュースとなっています。同じ場所ではさらにアカカミアリ(S. geminata)も見つかり*1、これからの展開が非常に気になるところです。

ヒアリは強力な毒を持っているためにこれほどまでに注目されているわけですが、その毒性についてこんなツイートが拡散されています。

このツイートによれば、(ヒアリを含む)アリ科スズメバチ上科に分類されるそうです*2。他の所でも同じような説明がされていますね*3*4*5*6。ところが、これに反論するツイートも存在します。

このツイートによれば、最新の分類体系ではアリ科スズメバチ上科ではなく、独自のアリ上科*7に分類されるようになったそうで。このツイートの情報は詳細なのでおそらく正しいだろうな、とも思うんですが、気になったのでソースになりそうな情報を集めてみました。

スズメバチ上科に分類する体系

上記にも例を挙げたように、少なくともネット上の日本語の文章では、アリ科(Formicidae)をスズメバチ上科(Vespoidea)に分類しているものが多いです。それらの元になったような影響力のある文献は日本語版Wikipedia国立環境研究所の『侵入生物データベース』などでしょうか。

英語の文献としてはAguiar et al. (2013)スズメバチ上科に分類しています。あれ、結構最近までアリ科をスズメバチ上科に分類していたんですね*8

アリ上科に分類する体系

一方、アリ科をアリ上科(Formicoidea)に分類する体系です。この体系は英語版Wikipedia*9*10をはじめ、最近のいくつかの文献*11*12*13*14でも採用されているのが分かります。*15Wikispeciesを見てみると、リファレンスとしてPilgrim et al. (2008)が挙げられています。この論文は分子系統解析によって旧スズメバチ上科の側系統性を明らかにし、旧スズメバチ上科を(アリ上科を含む)6つの上科に分割することが提案されています。

スズメバチ上科の側系統性はより最近の論文でも支持されています(Debevec et al. (2012)Johnson et al. (2013))。なので、アリ科をアリ上科に分類する体系採用する日本語の文献が次第に増えていくかもしれませんね。(すでに最新の図鑑では新しい体系を採用しているものもあるかもしれませんが、寡聞のため存じていません。)

まとめ

  • 日本語の文献では、アリ科はスズメバチ上科に分類されていることが多い。
  • 2008年の論文で、アリ科をスズメバチ上科から独立させ、アリ上科に分類することが提案された*16
  • この新しい分類体系は、最近の英語の文献で多く採用されている。
  • 日本語の文献では、これから古い体系から新しい体系へ移行していくかもしれない。

思うのですが、もしすでに新しい分類体系が日本語の文献で採用されていたら、果たして件のツイートはここまで拡散されたでしょうか?

私は、アリ科をスズメバチ上科に分類する体系が、「ヒアリが強力な毒を持っているのはスズメバチに近縁だから」という理由付けの後押しをしていると感じます。仮に本当にアリ科がスズメバチ上科に近縁であったとしても*17、ヒアリとスズメバチの毒性について直接の関連はないはずです。ですが件のツイートを見かけた人は、「スズメバチ上科に属する」というレッテルによって、ヒアリの毒性について「腑に落ちてしまった」のだと思います。

ヒトが歌を歌うからといって、「ヒト上科に属する」フクロテナガザルの同様の習性についても、彼らは「腑に落ちる」のでしょうか。もしそうでなければ、おそらくそれは彼らがヒトやサルについてある程度の知識を持っているからです。ヒアリに対する無意識のレッテルや偏見を克服するために、我々はどうやって知識を蓄積していけばよいのでしょうか?


*1:神戸港、今度は有毒アカカミアリ ヒアリ緊急調査で発見:朝日新聞デジタル

*2:クロオオアリもスズメバチ上科だよ」という補足がされています。

*3:ヒアリとスズメバチは同じ?毒の種類や間接的なアナフィラキシーショックはおこるのか? - 芸スポ7

*4:キャプテンの一言 » Blog Archive » 6/14(水)キャプテンの一言

*5:ヒアリが日本で生息している場所はどこ?毒の強さや対処方法と症状がヤバい! |

*6:http://entametrix.com/archives/6184

*7:実は先に文献に登場したのはアリ上科の方なんですね。(アリ上科:Formicoidea Latreille, 1802、アリ科:Formicidae Latreille, 1808)

*8:この論文の不思議な所は、旧スズメバチ上科の側系統性に関してまったく言及していないことです。もちろん、出版時期の都合上、Johnson et al. (2013)を引用することはできません。しかし、それ以前の文献、特にPilgrim et al. (2008)には言及しててもよいはずです。見つけることができなかったのか、それともあえて無視したのか、よくわかりません。

*9:Ant - Wikipedia

*10:Vespoidea - Wikipedia

*11:Karyotypes of Parasitic Hymenoptera - Vladimir E. Gokhman - Google ブックス

*12:Animal Behavior Desk Reference: A Dictionary of Animal Behavior, Ecology ... - Edward M. Barrows - Google ブックス

*13:Arthropods and Human Skin - John O'Donel Alexander - Google ブックス

*14:Pests of Fruit Crops: A Colour Handbook, Second Edition - David V Alford - Google ブックス

*15:英語版Wikipediaでも、Apocrita(有剣類)のページなどでは従来の体系を採用しています。

*16:2008年以前にも、アリ上科を採用している文献もあります。アリ上科を「スズメバチ目」(Order Vespida)に分類しているRasnitsyn (1988)はともかくとして、2000年に出版されたAmerican Insectsや1992年に出版された昆虫の生物学の第2版などでは、スズメバチ上科とは別にアリ上科が登場します。推測ですが、もしかするとかつての分類体系よりも前に、アリ科をスズメバチ上科に含めない分類体系が存在したのかもしれません。アリ科がスズメバチ上科に近縁であることがまだ判明していなかったとか、ハチの名前を冠する分類群にアリを含めることに抵抗があったとか、そんな理由なのでしょうか?。

*17:実際には、Johnson et al. (2013)においてアリ科がミツバチ上科に近縁であることが示唆されています。